貧乏克服日記
04/02/04 (水)
わが青春の残像を求めて
1-1
 あれは夢だったのだろうか?紅蓮の炎が津波のように目前に押し寄せてくる光景は、私の記憶の奥深くしまい込まれたまま今日まで眠っていた。思春期の断片、それは鋭く、そして今にも燃え立つような炎の色彩を帯びている。高度成長期の波に船出をする大海原の中の木の葉、そこに両親や妹、そして弟や私の5人家族が乗っていた。それらの残像を俯瞰して眺めているかのような今の私が、苦しみを伴なった懐かしさという複雑な想いで振り返ろうとしている。昔の自分に「ようこそ」、振り返る顔は艶やかで若い顔の、そしてまぎれもない自分だ。にきびもあるね。君はなんでそんなに暗い顔をしているんだい?青春を楽しめない日々、それが私の偽らざる思春期でもあった。大勢の職人たちが父の周りに居た。ヘルメットを被り、地下足袋を履き、現場に向かう父の姿はいつものように変わらず、私の脳裏に今も定着している。めったに地下足袋を脱いだことのない父の足の、その指の爪は黒く変色していた。仕事に誇りをもって生き、そしてそのために死んでいった父、あの日、あの朝の、朝日に照らされたあなたのシルエットを、私は生涯忘れることはないだろう。

 「息子が、わたしの息子が・・・まだ家の中にいるんだ!」
 「奥さん、こんなに火の手が上がっていては俺たちだって助けられないよ」
 消防士の制止を振り切って、燃えさかる家屋の中へと入ろうとしている女の人、あれは私の母です。ずぶ濡れになっているのは、水を被ったから・・・2月の寒い夜明け前でしたから、さぞ冷たかったろうと思います。そのときの母の顔は必死で、めらめらと燃え立つ炎の赤い色が生きもののように母の顔を照らしていたはずです。「かあちゃん、オレはまだ生きているよ」 未来の今の私が過去の母に語りかけます。でも過去に生きる母には聴こえません。そのうち「息子さんはさっき見かけましたよ」と云う近所の人に、安堵する母、へとへとと地面に崩れるように腰を降ろす様子が見えます。ありがとう、かあちゃん。私はこの時のあなたの必死を人づてに聞いてから、今までずっと心の拠り所としてきました。
 このときの我が家の火災は、夜明け前の市街地の空を真っ赤に染めたと、地元の新聞にも載ったのを覚えています。家は工場と隣接し、お客さんの車も燃えてしまいました。車は工場から出されたのだが、火災の熱線で燃えてしまったのです。溶剤の入った材料にも引火し、それが火の手を早めたのです。辛うじて脱出した私も、頭の耳と太腿にひどい火傷を負いました。逃げ遅れそうになった私は、ちょうど生きたまま棺桶に入って焼かれるような心境でした。火災の原因は不明でしたが、警察は火の元の我が家の責任を重くみて、そして両親や中学生だった私も訊問に近い取り調べを受けました。その警察に向かう時だったのです、私が朝日の逆光に浮かぶ父のシルエットを見たのは。焼け跡を一周するパトカーの窓から、私は立ち昇る白い蒸気に包まれた父の姿を見ていたのでした。それはまるで夢のように幻想的な光景でした。
3世代-クロ方オス猫ナメ次郎3世代-クロ方パーコ3世代-クロ方メス猫コミック1世代-メス猫クロれいんぼうTOP2世代-メス猫チロ3世代-チロ方メス猫ミツコ3世代-チロ方オス猫ブサイク3世代-チロ方オス猫ブラウン